うえだ城下町映画祭第15回自主制作映画コンテスト

コンテスト結果

審査員3名(大林千茱萸さま、柘植靖司さま、古厩智之監督)による審査の結果、下記のとおり「大賞」1作品、「審査員賞」3作品、この他、うえだ城下町映画祭実行委員会が別途102作品から選んだ「実行委員会特別賞」1作品が決まりました。

作品名 監督 作品の
時間
大賞 想像だけで素晴らしいんだ -GO TO THE FUTURE- アベラヒデノブ 93分
審査員賞
(大林千茱萸賞)
注射針をブルーシートで 小宮山 みゆき 25分
審査員賞
(柘植靖司賞)
びっぐすり~ 湯淺 士 57分
審査員賞
(古厩智之賞)
ソフトパレード 佐野 竜馬 49分
実行委員会特別賞 向こうの家 西川 達郎 93分

映像の収蔵と配信について

受賞作品は、上田市マルチメディア情報センター映像ライブラリーに収蔵しました。また「びっぐすり~」は平成31年3月31日までインターネットで配信いたしました。


審査員コメント

大賞作品「想像だけで素晴らしいんだ ‐GO TO THE FUTURE‐」

 一つの楽曲の世界観からイメージを膨らませてドラマを作るという面白いチャレンジでした。私は不勉強でこの楽曲を全く知らないまま映画を見ましたが、作品を見ながら、果たして元となった楽曲はどのような曲(特に歌詞)なのか?と想像を掻き立てられました。作品後半に楽曲を知ることになるのですが、この楽曲からこのドラマを想像したのかと驚かされました。楽曲の歌詞に『想像を近づける、現実に近づける』という1節がありますが、楽曲の世界観を確かな作品としてドラマの創造に成功していると思いました。
(審査員 柘植靖司)


 彼女に、妻に、「何か言え」と言われて、「待って…待って…」しか言えない主人公。青春ていうのは受け身なもので、それで許され、だからこそ停滞する喜びなんかもあるのだけれど。 この映画の主人公は実は達観していて、自分はずっと人の物語の脇役であることに甘んじていて。悟った老人のようで。自分のまわりの人達の人生が動き、ときに歪んだり、苦しみに張り詰めたりするのに感情移入して、わが事のように(実はテレビを見るように喜怒哀楽をともにして)生きている。そんな彼が「自分の叫び」を手に入れるおよそ20年あまりにわたる物語。喉から叫びを絞り出すクライマックスには涙してしまった。
高速で紙芝居がめくれるように人生が流れていくハイスピードな構成、その中にふいに時間が止まるように訪れる静寂の一瞬(マリオカートの手と手、道にいつもいるアジテーター、高校の屋上…)。
見終わったときには、劇中にも出演するバンドPANの「行け、行け、行け、行け、行け!」が胸に鳴り響くと思います。
(審査員 古厩智之)


審査員賞 大林千茱萸賞「注射針をブルーシートで」

 死んでいる人の足、閉じられる棺の蓋──場面変わり──生きている少女の足、押し入れにいる少女。顔が安らいで見えるのは「押し入れ」が少女の「棺」だからだろうか……。
物語が進むと、少女には妹がおり、どうやら妹は病を抱えていて先が短そうな予感を漂わせる。それを病が辛い、苦しい、と、妹の苦悩で見せてゆくのでは決してなく、姉と妹の「一瞬」の笑い合いや、部屋の中に蝶が飛んでいたり(蝶は亡者の魂を運ぶといわれる)、妹が勝手に着て怒られる姉の服の柄が紫陽花で、まるで蝶がとまりそうだなと思わせる。あるいはショックな話しを聞いた少女の視界(画面)がぼやけてゆく。そんな風に“死の匂い”をひらりひらりと積む演出が、観るものの心に少しずつ揺さぶりを重ねてゆく。
触れたくないのにすり寄ってくる死をふりほどこうと、少女はもがきながらも逃げず、すっくと立ち向かう。 死とはナニか、確かなモノを求めるようにSNSで「死をつぶやく青年」に逢ってみたりもする。死にたい死にたい死にたいと、よくしゃべる音楽をやっているという躁鬱の青年は生を持て余し、一所懸命に夢を語るが未来が見えない。「死」は1種類じゃない、妹とは違う死の匂い。
ときおり挿入される新聞やテレビニュース映像、スマホなど小道具の使い方も丁寧で効いている。「じゃぁ、またスマホで!」なんて今を生きる台詞、プロの脚本家にはなかなか難しい領域でもある。でありながら、少女とSNS青年の会話劇はカメラ位置が定まらず狙いが不安定。背景(住所や看板の映り込みなど)の雑さも感じられた。小宮山監督に題名の由来を訪ねたらあらかた「ノリ」で決めたとの返答。多作の作家ならではの軽さゆえか……。
ともあれ、物語を引っ張る主人公の少女の瞳に、肉体に、その動きから、目が離せなかった。「まだ大丈夫」「バカ──!」「死ぬな」「生きろ! 生きろ──!!」「ずっと生きろ──!!!」。もとは自分の、けれどいまは妹の死に装束をまとい、走る走る走る──。主人公と一緒に疾走したくなる、“命”を感じる作品でした。
最後に、これはいつも審査する自分に課していることですが、私は応募作品を観る前に「応募用紙」は読みません。まず「作品ありき」。その理由から『注射針をブルーシートで』も、観終わってからはじめて監督の小宮山みゆきさんが女性で、20歳(撮影当時は19歳)で、しかも映画祭が行われる地元の上田出身(!)であることを知りました。なのでこれはひいき目なし、まったく純粋に作品の力に引っ張られての賞です。おめでとうございます。
(審査員 大林千茱萸)


審査員賞 柘植靖司賞「びっぐすり~」

 湯淺監督が尊敬する北野武監督に対するそのリスペクト感がひしひしと伝わってきました。 誰かが「すべての芸術は模倣から始まる」と言っていますが、模倣して模倣して、その作品の本質に触れ、そしてどうしても模倣しきれない処にその作家の個性があるのだと思います。この作品は北野監督の『キッズ・リターン』に登場する漫才師を目指す高校生から着想し、その後を膨らませて描いていると思いますが、『キッズ・リターン』の製作に関わった私としては大変興味深く、何処か気恥ずかしく、鑑賞しました。俳優陣も魅力的で、22歳の監督がこれだけの演出力を発揮されていることに関心しました。
(審査員 柘植靖司)


審査員賞 古厩智之賞「ソフトパレード」

 物語が進む内に、みんながこちらの想像の斜め上を行く変な奴だとわかってくる。アイドル的な女の子はひどいビッチだし、AV好きな愉快なおじさんは死んで哲学的な幽霊になるし(笑)、ごみ収集の主人公の目にはひたすら殺気が満ち満ちて行くし…。
人間の皮がどんどんめくれて新しい顔が見えてくると、見てるこちらの価値観が更新されて行く。こいつはもっとヒドいかもしれない。世界にはもっと底知れない顔や闇がある。またあるときには意外な光さえ持っているかもしれない…。
その「価値観の更新」とは、言い換えると「世界に出会っていく」ということ。赤ちゃんはいつも新鮮な世界に出会いますよね。そんな手触りを持った、ラブでありコメディでありホラーでもあったりする、実は超ラジカルな青春映画です。感動してしまいました。
(審査員 古厩智之)


実行委員会特別賞 「向こうの家」

 父親の愛人を巡る家族の心模様を、どこか明治・大正期の文豪が描いた短編の様なタッチで丁寧に描かれたこの作品に、若い人たちの意外な心情を見出すことができた。 先入観かもしれないが、男と女の複雑で古典的な有り様は、若い人たちにとって古めかしく面倒臭いはず。頭から拒絶され、関心の外だと思っていたのですが、意外なことに、特に今年はこの「一見古風な男女の成り合い」をテーマにした作品が多く、目を引いた。(ノミネート作品「夜間飛行」もそのひとつ)
男女平等が叫ばれ、「愛している」と言う台詞を添えて誕生日にプレゼントをすれば、それが「幸せ家族」・・マニュアル化された日々の生活。映画「向こうの家」はそんな日常に問いかける「家族とは?」「男とは?女とは?」「愛とは?」「生活とは?」高校生の萩は大人の世界に一歩踏み込む。
実は「一歩踏み込む」は「一歩だけ踏み込む」であって、そのバランスがこの映画の空気をつくり、新しくもあり、今にアピールする要素なのだろう。 バランスの良さをもうひとつ言うならば、お話の冒頭が高校のサークル「釣り部(から始まり) 海、魚、釣り大好きおじさん、魚拓、魚料理(刺身・酒)、クルーザー、大海原、別れ」と、まるで魚の背骨の様に、物語の中心を魚が真っすぐに泳ぐが如く貫いている。この構成の良さ、バランスの良さがそのまま映画を良質なものにしているのだろう。
映画制作を志す若き作者には、これからも、常識とされる価値観に捕われることなく、いつまでも自由な発想の持ち主でいてほしい。そして先ず、その発想を具現化する為の一歩を踏み込んでほしい。いや、 一歩でなく、心行くまで踏み込んでほしい。多少のアンバランスは、反っておもしろい。
(うえだ城下町映画祭副実行委員長 山﨑憲一)


コンテスト全体について

 本年は比較的長尺の作品が多かったように感じました。審査員の最終審査においても割と長尺作品が残っていたと思います。長尺作品を制作するにはエネルギーが必要ですが、その分集中力を持続するのが難しくなります。特に仕上げ・編集段階に影響を与えます。私の実感としては、長尺作品の多くは20%近く短く出来たのではと・・・。撮影前、特に脚本作成段階でどれほど効果的にコンパクトに出来るかが勝負だと思います。・・・正直、退屈を感じることが多々ありました。 一方、毎年、応募作品の監督の演出力が高くなっていることに関心します。
(審査員 柘植靖司)

ノミネート作品(受付順)
作品名 監督名
その神の名は嫉妬 芦原 健介
坊ダンス 小林 舞
予定は未定 磯部 鉄平
センターライン 下向 拓生
夜間飛行 三宅 美奈子
朝子と梅子と葉子の話 山村もみ夫。
透明花火 野本 梢

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