受賞作品発表 2020年11月2日(月)
この度は、うえだ城下町映画祭第18回自主制作映画コンテストにご応募くださりありがとうございました。
全国から123作品の応募があり、 審査員3名(大林千茱萸さま、柘植靖司さま、古厩智之さま)による審査の結果、17作品が受賞候補としてノミネートされ、その中から4作品が大賞・審査員賞に決まりました。また、実行委員会で全応募作品を対象に別途審査を行い、1作品が実行委員会特別賞に決定しました。
受賞・ノミネート作品は11月7日(土)~22日(日)にオンラインで配信します(作品によって公開期間が違います)。また、オンライン監督舞台挨拶も配信します。→スケジュールはこちら
受賞作品
賞 | 作品名 | 監督 | 作品の 時間 |
---|---|---|---|
大賞 | 「愛をたむけるよ」 | 団塚唯我 | 28分 |
審査員賞 (大林千茱萸賞) |
「Fear of missing out」 | 河内 彰 | 35分50秒 |
審査員賞 (柘植靖司賞) |
「ムイト・プラゼール」 | 朴 正一 | 31分 |
審査員賞 (古厩智之賞) |
「あらののはて」 | 長谷川朋史 | 67分 |
実行委員会特別賞 | 「リッちゃん、健ちゃんの夏。」 | 大森 歩 | 31分 |
審査員コメント
大賞「愛をたむけるよ」
幼いころ母に自殺され消え去られてしまった青年。夫に去られ虚無感にとらわれたシングルマザー。彼の高速でアイドリングしてるような息せき切った話し方が。彼女のいつも遠くを見てしまう視線が。とてもリアルでほんとうに生きている人間に見える。
孤独に慣れてしまった彼と、孤独を受け入れられない彼女。仕草や言葉、視線から、染み出してくるのは「どうしようもなく、そうとしかできない」ということ。バランスを欠いた振る舞いも、過剰な言葉も、虚空を見つめる視線も。彼らは他を選べず、そうとしかできないからそうしている。
でもそれは言いかえると一生懸命とも言える。彼らにできる残された細い道を、彼らはそれぞれたったひとりで懸命に生きている。そこに他からの助けはなくて、いきおい振る舞いは近視眼的に独善的にもなるのだけれど。彼らが懸命に生きているから、好きになってしまう。こころの中でいつのまにかそっとつぶやいてしまう。
死ぬな。なんとか死ぬな。
だから映画の終盤、ふたりの距離が近づく(かもしれない)という展開で、奇跡をいつのまにか心待ちにしている自分に気が付く。そのときの気持ちは、祈りに似ていて驚く。(古厩智之)
大林千茱萸賞「Fear of missing out」
今年123本の応募作の中でいちばん「夜」の美しさが描けていて、コントロールした撮影がとても美しく、映画的に印象深い場面が多いーーつまり、言葉だけでも音楽だけでも説明することができない、映像の力が強い作品でした。
暗闇からはじまり、ほのかな光にうっすらと浮かび上がってくる体育館、ほの暗い中でうごめく少女たち。そこからぽん!とシンプルに車のライトに挟まれて出るタイトルも良かった。
実は現代の夜、私たちが暮らす日常というのはけっこう明るいものです。「見えてしまう」ので、入ってくる情報も多い。だから視点の先がばらけてしまう。でもこの作品は、作品を照らすそのギリギリの明かりが、観客の集中力を促してゆきます。観客の視点をうまく誘導している点にも巧さを感じました。
劇中にボイスレコーダーが出てくるのですが、声を聞きながら主人公が泣くシーン、腹部を写す演出もよかった。泣いているときというのは、けっこう腹部、動くんものなんです。しゃくり上げることで悲しみが出ていました。そしてその無機質なボイスレコーダーから響く抑揚のない淡々とした語りかけが、逆に一所懸命に死の瀬戸際から話しかけられている感じもしました。
見続けてゆくことで、他者を理解し分かろうとすること、他者を思う気持ち、居なくなってから気付く、それまでは当たり前だったことの崩壊ーーという、人の存在と、心の普遍性を考えさせられました。久しぶりに「気配」を感じる映画でした。
夜の駐車場の長回しは、川の流れのようであり、星空のようでした。遊具に映るフリッカーはシネマトグラフのようでした。ディゾルブの重なる場面の、建物の前で遊ぶこどもだちのシルエットや、電灯の下でポリ袋を持つ壁に映る人影など、ひとつひとつの夜の描写に物語があることで、大きな画面でこの作品が持つ暗闇の力に包まれたい、大きな夜を浴びたいという気持ちを欲しました。また、夜に大きく抱かれながら夜が明け、町に朝陽が当たる美しい場面には鳥の目になったようで、吸い込まれる気持ちよさもありました。
「誰も知らない今日を過ごす。想い出にもならない今日を過ごす。その想い出のどこかに夫もなって、私もなる」――まるで散文詩のような、いい台詞も印象的でした。
大林千茱萸賞という大袈裟な名前が付いていますが、事前に履歴書に眼を通すことはなく、まず真っ白な状態で先入観なく作品と対面させて戴いた上で、自分が圧倒されたものを基準に選ばせて戴きました。今後も映画を作り続けてくれるのではないかという期待も込めて。河内監督は会社員をされながら映画を作り続けてらっしゃるとのこと。それは、映画を上映する出口ひとつ見付けるのも大変な作業です。けれどその素晴らしい作家性でもって、是非これからも映画を作り続けて欲しい、次回作を観たいという願いも込めて、賞を贈らせていただきました。おめでとうございます。(大林千茱萸)
柘植靖司賞「ムイト・プラゼール」
登場する人物の面構えだけで何かを伝えてくる。日本人高校生と在日日系ブラジル人学生の表情の違いだけでそこに横たわっている課題と現状を感じさせます。極端に言えば、この映画はサイレントであっても、監督の意図は伝わるでしょう。
日本人の学生の顔がとても幼く感じました。もちろん、日系の学生たちも幼く、可愛い表情をするのですが、どこかに向かい合っていることへの厳しさを感じました。
この話は、在日韓国人の金本先生の話だとも感じたのですが、この時間の中では描き切れていない不満を感じました。
ラストのホームでの金本先生と日本人生徒とのやり取りは監督の日本人への思いやりでしょうか?
この映画は監督がテーマとすることへのまさに「はじめまして」の短編で、ぜひこの続編を見たいと思いました。(柘植靖司)
古厩智之賞「あらののはて」
まず脇役がとてもいい!
冒頭、主人公の女子高生が出したガムを食べる美術部の男の子(奇妙な趣味の持ち主なのに、マイペースで柔らかくてかわいい)!
その彼を好きな別の女の子が「彼があんたの出したガムを食べたぁ!」って嫉妬に狂って主人公に掴みかかるのも最高(彼女はパワフルで魅力的)!
8年後、大人になった彼と同棲してる女の子のおしゃれさとしなやかさ(一途さと冷めた距離感が同居している、そのかわいさ!)。
メインの筋である【彼に絵を描かれて絶頂に達してしまった女子高生が、8年後に「絵の続きを描いて」と彼を訪ねる】…という話も、ファニーな設定でおもしろいのだけど。それ以上に細部の奇妙さと脇役たちの生き生きした具合が弾んでいる。主人公はみんなに見つめられる空っぽな存在としてそこにいて、人間はズレそのものを必死に生きている、それが何よりおもしろい、という監督の価値観と、映画を作るっておもしろい、という喜びが満ち溢れていて。楽しい一本でした。(古厩智之)
実行委員会特別賞「リッちゃん、健ちゃんの夏。」
通常、映画を語るに「技術が云々」は馴染まない言い方ではあるが、あえて「この映画は技術が素晴らしい」と言いたいのは、撮影の技術、音の技術、そしてシナリオにおける技術がこの映画を支えていると思うからです。
聞くところによると、この映画は制作に当たって幾つかのお約束が課せられていたとのこと。
それらの条件をクリアし、更に上質な作品に仕上げるに成功したのは、スタッフそれぞれが持つ高度な能力と、それを発揮させる力となるシナリオがあったからだろう。
映画「リッちゃん、健ちゃん」成功の鍵は、あらゆる条件を逆手にとって好機に転じさせたこと、そして、そこにスタッフの能力が集中できたからだと思う。
渋谷駅でのラストシーン、このシーンの減り張りによって観客は突然現実の世界に繋がる、そして感じる「今まで観ていた有りそうで無さそうお話は、もしかしてアリかも?ま、いいや」
都会の騒然に対しての長崎の自然(聞こえる波・鳥・虫、美しい海・島・教会)異なる世界の対比(カナブンが寄る世界・カナブンが去る世界)にスタッフの腕(技術)が光る。
更にこのシーンは、広い画面全体を(エキストラ等で)作り込むハリウッドの映画でもなく、少人数で狭い画面でこなすテレビドラマでもなく、自主制作映画独特のシーンであり、ドキュメンタリーの世界にフィクションを溶け込ました様なこのシーンこそが、内容ともシンクロし、この映画を象徴するシーンと言える。
よく「映画は夢・映画は青春」と言われるが、今、多くの若者が置かれている現状と、加えて制作における厳しい条件を考えると、素直に夢とか青春の表現はシンドイと思うのが当然だ。
が、しかし、作者はその条件を利用し、日常では背徳ともやゆされ兼ねない物語りを、条件に絡めた宗教的価値観なるフィルター(価値観)を掛けることに依って、その難題を見事にクリアさせるだけでなく、悲惨な我々の現状をも忘れさせるバーチャルな世界に誘う。
まさにシナリオの技術的勝利だが、できれば次のシナリオは外のフィルター(価値観)を探すのではなく、内なるフィルター(価値観)で創って欲しい。(実行委員長 山﨑憲一)
ノミネート作品(順不同)
作品名(順不同) | 監督 | 作品の 時間 |
---|---|---|
「コーンフレーク」 | 磯部鉄平 | 95分 |
「カズキのパラドックス」 | 坂本保範 | 32分48秒 |
「別れるということ」 | 渡邉高章 | 20分 |
「Vtuber渚」 | GAZEBO | 29分 |
「健太郎さん」 | 高木駿輝 | 35分 |
「溶けるおと」 | 梶浦勇矢 | 34分 |
「手遅れの葉一」 | シェークМハリス | 28分 |
「アカリとマキコ」 | 吉田岳男 | 23分 |
「トンズラ」 | 花房慎也 | 46分 |
「MARIANDHI」 | 髙橋栄一 | 24分 |
「過ぎ行くみなも」 | 河辺怜佳 | 83分 |
「賽は投げられた」 | 森田和樹 | 19分 |
次点作品(順不同)
作品名(順不同) | 監督 | 作品の 時間 |
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「FRONTIER」 | 服部正和 | 99分 |
「サファイア」 | 橋本根大 | 44分 |
「紡ぐ」 | 野田麗未 | 19分56秒 |
「ブルーな気持ち」 | 草場尚也 | 33分 |
「春空と秋空」 | 村松大翔思 | 21分40秒 |
「あなたのかわりに」 | 山下 涼 | 59分 |
「ファミリーファミリー」 | 大川裕明 | 29分 |
「声」 | 小松朋喜 | 48分 |
「息をする」 | 一村龍佑 | 43分 |
「ASTRO AGE」 | 小川貴之 | 24分 |
「在りし人」 | 藤谷 東 | 30分 |
「レミングたち」 | 角 洋介 | 29分 |